『微積分学(Calculus)』は微積分学の入門書に適切である。この章ではすぐに2つの問題に飛ぶ。それの解を作り出すのが主題なのだ。何が問題であるのかと、その答えの重要な部分を見ていく。詳細は別の章で。では、始めよう。
親しみやすい例である車の運転から始める。運転手の目にするところに微積分学はある。例えば、速度計と走行距離計の関係がある。速さ (速度 (velocity) ) を計るものと、進んだ距離 (distance) を計るもの。速度を v 走行距離を ƒ で表すことにする。2つの器具はダッシュボードに並んでいる。
[図1.1 (ある瞬間の)速度 v と総走行距離 ƒ ]
v と ƒ で単位が異なることに注意。距離 f はキロメートルやマイルで計る。速度 v はkm/時や時速何マイルで計る。時間の単位が速度には入るが、距離には入らない。ƒ から v を求める計算式はすべて、時間あたりの距離になる。
微積分学の中心となる問題は v と ƒ の関係
ƒ を知っているとして(逆でもよいが)v がわかるだろうか?どうやって? 車の速度の履歴すべてを知っていれば、当然総走行距離を計算できるだろう。言い換えれば、速度計が正確で走行距離計がずれている場合、その情報を修正することが出来る。(微積分学が無ければ)新しい走行距離計を取り付け、もう一度正確な速度で車を走らせることになる。それは難しそうだ。微積分学の方が楽だろう。だがポイントは、情報がそこにあるということだ。v についてすべて知っていれば、ƒ を見つける方法があるにちがいない。
ƒ が分かっているとして、向きが逆だったらどうなるだろう? 全距離記録があったら、全速度を求められるだろうか? 理論的には、車を走らせ、同様に繰り返し、速度を読み取ることは出来る。だがもっと良い方法があるにちがいない。
微積分学全体の主題は v と ƒ の関係を組み立てることだ。これから話が進んで数学を始めてからも、ここで挙げた問題は単なるジョークの類ではない。反対に今度は真剣になろう—数学を始める。距離の記録から速度を求める方法を知る必要がある。(それは微分といい、微分学の中心となる概念だ) また速度の記録から距離も出したい。(それは積分であり、積分学の目標だ)
微分は ƒ から v で、積分は v から ƒ だ。初めにこの2つが計算でき、理解できる例を見てみる。
速度を v = 60 に固定したとする。このとき ƒ は一定の割合で増える。2時間後の距離は ƒ = 120 になる。4時間後には ƒ=240 になり t 時間後には ƒ = 60t となる。 ƒ は時間について直線的に増加する #1(ƒ increases linearly) という — そのグラフは直線になる。
[図1.2 一定速度 v=60 と直線で表される距離 ƒ=60t ]
この例では車が全速で始まっていることに注意。速度を上げるのに時間がかかっていない。速度は「階段関数("step ƒunction")」となっている。また、距離はゼロから始まっていることに注意。新車なのだ。こう決めることで v と ƒ のグラフを可能な限り適切にする。1つは水平線 v=60 もう1つは傾いた線 ƒ=60t である。この v, ƒ, t の関係には微積分学ではなく代数学が必要だ:
v が一定であり ƒ が 0 で始まるならば ƒ = vt である。
逆もまた然り。ƒ が直線ならば v は一定である。時間で割れば傾き (slope) が得られる。時間が t1=2 のとき距離が ƒ1=120 そして t2=4 で ƒ2=240 どちらの点も割合 ƒ/t は 60 である。幾何的には、速度は距離グラフの傾きである:
傾き = 距離の増加量 / 時間の増加量 = vt / t = v
[図1.3 直線 ƒ = 20 + 60t (傾き 60) と ƒ = -30t (傾き -30)]
ƒ のグラフの傾きは v のグラフとなる。 図1.3 は更に2つの可能性を示唆している:
速度計がゼロを下回るとは思えない。観測するのは危ないが、後ろ向きに走る。十分速度を出すが、トヨタは「絶対値」を返す。— 速度計は -30 のとき +30 と読める。私の知っている限りでは走行距離計はただ止まるだけだ。戻るべきだ。*1
どのように v から ƒ を求めるか? この問題のポイントはグラフで ƒ = vt を見ることにある。v のグラフから始めて ƒ のグラフを求めたい。 驚くべきことに、傾きの反対は面積 (area) なのだ。
距離 ƒ は v のグラフの下側の面積である。v が定数のとき、グラフの下のところは長方形になる。その高さは v 幅は t 面積は v と t の積である。これが v から ƒ への面積計算による積分である。微積分学の2つの主要問題に触れているのだ。
1A ƒ のグラフの傾きは速度 v を与える。v のグラフの下側の面積は距離 ƒ を与える。
これはあまり明らかではないので、この第1章に書くまでに長く躊躇った。まずはより多くの例を見るのが分かりやすい。微積分学全体のポイントは、一定でない幾つかの値をとる速度を処理することだ。
例(前進と後退)わかりやすい運動がある。車が速さ V で前進し、同じ速さでバックする。より正確に言うと、後半は速度 -V である。前半は t = 3 まで、後半は t = 6 までであり、車は出発点に戻る。総走行距離は前半後半あわせて ƒ=0 である。
[図1.4 速度 +V と -V は前進と後退を表し、結局 ƒ(6)=0 となる。]
v のグラフは速度 +V と -V を示す。距離は傾き +V で始まり ƒ = 3V に辿り着く。それから後退を始める。距離は傾き -V に従って下がり、t = 6 で ƒ = 0 に戻る。
何を意味するのか。v のグラフの下側の総面積はゼロだ! 負の速度は、距離のグラフを下げる(負の傾き)。車は後ろ向きに走っている。 v グラフで座標軸より下の面積はマイナスとして数える。
この前進後退の例は、極めて重要な概念「関数 (function)」の実践である。この良い機会に関数を説明する:
v(t) は t における関数 v の値である
時間 t はこの関数の変数である。このとき速度 v(t) は 関数値である。v(t) はヴイ・ティー ("v of t") と読むことが多い。 ヴイ・2 ("v of 2") は t = 2 のときの速度である。例では v(2) = +V , v(4) = -V である。関数は全体の時間を含んでおり、t ごとの v を記録した記憶メモリのようなものだ。
前進後退を公式に置き換えるのは簡単である。これが v(t) だ:
v(t)= | { | +V | if 0<t<3 |
? | if t=3 | ||
-V | if 3<t<6 |
右辺には v(t) の決め方が含まれている。変数 t は +V や -V で返される。速度 v(t) は t に依存する。この場合、関数は 「不連続」である。t=3 で先が飛んでいるので。その瞬間の速度は定義されていない。v(3) は無い。 (v はそのときゼロだと思うかもしれないが、問題がある。) グラフに角があり、その傾きを与えることができない。
この問題は次の関数、つまり距離に関係する。ƒ(t) の背景となる原理は同様である: ƒ(t) は時間 t における距離である。それは前進した正味の距離であり、やはり t = 3 で変化する。前進中は以前のように ƒ(t) は Vt である。後半、ƒ(t) の計算は次のように組み込まれる:
ƒ(t)= | { | Vt | if 0≤t≤3 |
V(6-t) | if 3≤t≤6 |
切り替わり時に右辺は2つの式(それぞれ直線上にある)を与える。これは一致しないとまずい: ƒ(3) = 3V *2。距離関数は「連続」である。v で飛んでいようとも、ƒ では飛ばない。t = 3 の後、距離は -Vt に従って減少する。t = 6 のとき2番目の式は確かに ƒ(6) = 0 を与える。
もう少し注意することがある。関数は式で与えられるより先にグラフで与えられた。グラフによってすべての t について ƒ や v がわかる。— 式よりもはっきりすることがある。ƒ(t) や v(t) の値は表や等式、あるいは複数の条件式(#2)で与えられることもある。 (ある意味ではすべての関数は条件式である。 — 関数は時間 t に対しての ƒ 決め方である。) ƒ の一部を知ることは、そのすべての代入値と返し値(#3)(変域と値域という)を知ることである:
関数の変域とは代入する値の集合である。値域は関数の値の集合である。
ƒ の変域は 0≤t≤6 のすべての時間からなる。値域は 0≤ƒ(t)≤3V のすべての距離からなる。 (v の変域は +V と -V のたった2つしかない。) あとでまた繰り返すが、一次関数はすべて ƒ(t) = vt + C という式になる。そのグラフは直線で v はその傾きである。定数 C はその直線を上下に動かす。任意の出発点を通るように調整している。
この例から明らかになったことを整理してみよう。v と ƒ の2つの関数が出てきた。速度と距離だ。それぞれの関数は変域と値域、それともっと重要であるグラフを持っていた。ƒ のグラフでは傾き( v に一致)を勉強した。v のグラフでは値域( f に一致)を勉強した。微積分学は2つ1組の関数を生み出す。そのことを深く見ていくことが、はじめに記すべきことなのだ。
in | { | input t | → | function ƒ | → | output ƒ(t) | } | in |
the | input 2 | → | function v | → | output v(2) | the | ||
domain | input 7 | → | ƒ(t)=2t+6 | → | ƒ(7)=20 | range |
関数の定義について注意 ƒ(t) という記号の裏には数学の本当に重要な発想が隠れている。言葉は不十分だ! (Words don't do it justice!) 定義によると、関数は変域の1つの要素をそれぞれ値域の要素に対応させる「ルール」である。もしくは、関数は (t, ƒ(t)) という組の t を省いたものなのだ。 (t を ƒ(t) の前に書くことにしたので、これらは 「順序組("ordered pairs")」である。) どちらの定義も正しい — だが何か受身的過ぎる。
実際に重要なのは積極的な部分だ。ƒ(t) は t から生まれる。グラフを読み、式に当てはめ、方程式を解き、プログラムを走らせる。入力値 t は出力値 ƒ(t) に「写像("mapped")」 され、t の変化に伴って変化する。微積分学は変化の割合を考えるのだ。この割合は別の関数 v である。
[図1.5 ƒ から 2 を引いたことによる値域の影響。t から 2 を引いたことによる変域の影響。]
ƒ(t)-2 and ƒ(t-2) の違いが分かるのは、はじめはとても難しく、自明ではない。これらは共に ƒ(t) から作られた新しい関数である。ƒ(t)-2 ではすべての距離から 2 を引く。グラフ全体が下に動く。ƒ(t-2) では時間から 2 を引く。グラフは右に動く。図1.5は始めの ƒ(t) = 2t + 1 と2つの移動を表している。ƒ(t-2) を導く式は 2(t-2) + 1 であり、2t-3 となる。
見ているウィンドウを変化させると、グラフ計算機 (graphing calculator) もグラフを動かす。任意の長方形 A≤t≤B, C≤ƒ(t)≤D を選ぶことが出来る。スクリーンはグラフの一部を映す。しかし計算機では ƒ(t) はそのままである。数値を書き換えないのだ。数値は変わらず、関数が変わっている。
関数を変えるためのもっと基本的な方法がある。 (我々は常に新しい関数を作り出している — それが数学のすべてだ。) 足したり引いたりする代わりに、距離に 2 を掛けることも出来る。図1.6 は 2ƒ(t) を表している。それから時間を移動させる代わりに、速度を上げることもできる。その関数は ƒ(2t) である。どれも速さが2倍になる (そして所要時間は半分になる)。これらの変化は計算機の(ƒ軸やt軸の)「拡大"zoom"」と同じだ。すぐ拡大に戻る。
[図1.6 距離や速度を2倍にすると傾きが2倍になる。]
本書の各節には読み通しの問題を載せている。これによってまとめを読むよりも各節の概要がはっきりするだろう。 おそらく重要な概念を覚えるために最適な方法である。
Starting from f(0) = 0 at constant velocity v, the distance function is f(t) = a. When f(t) = 55t the velocity is v = b. When f(t) = 55t + 1000 the velocity is still c and the starting value is f(0)= d. In each case v is the e of the graph of f. When f is negative, the graph of g goes downward. In that case area in the v-graph counts as h.
Forward motion from f(0) = 0 to f(2) = 10 has v = i. Then backward motion to f(4) = 0 has v = j. The distance function is f(t)= 5t for 0≤t≤2 and then f(t) = k (not -5t). The slopes are l and m. The distance f(3) = n. The area under the v-graph up to time 1.5 is o. The domain off is the time interval p, and the range is the distance interval q. The range of v(t) is only r.
The value of f(t) = 3t + 1 at t = 2 is f(2) = s. The value 19 equals f(t). The difference f(4) - f(1) = u. That is the change in distance, when 4-1 is the change in v. The ratio of those changes equals w, which is the x of the graph. The formula for f(t) + 2 is 3t + 3 whereas f(t+2) equals y. Those functions have the same z as f: the graph of f(t) + 2 is shifted A and f(t+2) is shifted B. The formula for f(5t) is C. The formula for 5f(t) is D. The slope has jumped from 3 to E.
The set of inputs to a function is its F. The set of outputs is its G. The functions f(t) = 7 + 3(t-2) and f(t) = vt + C are H. Their graphs are I with slopes equal to J and K. They are the same function, if v = L and C = M.