きったんの頭

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微積分学

微積分学の導入

1.4 円運動

この節では全く新しい距離と速度を紹介する—三角比の正弦 (サイン:sine) と余弦 (コサイン:cosine) だ。こう書いてから自問したのだが、三角比についてどのくらい知っておくべきか。各辺が cos t, sin t, 1 である直角三角形の基本的な絵があるだろう。重大な式 (cos t)² + (sin t)² = 1 があるだろう。ピタゴラスの定理 a² + b² = c² だ。2辺の平方の和は斜辺の平方になる (そして 1 は実際 1² だ)。すぐに必要なものは他にない。三角比を知らなくとも、止まることはない—重要な部分は今学んだ。

サインとコサインの波形グラフを確認しよう。これらのグラフの傾きを求めるつもりだ。それは sin(x+y) や cos(x+y) の公式を使わずとも可能だ—あとでより代数的に同じ傾きを求める。必要なのは基本的なことだけだ。* それで結局、三角形はどのように複雑になり得るのか?

一言   三角比は測量技師や航海士 (三角形を扱う人々) のためだけのものだと思っているだろう。とんでもない! ずっと大きな応用は回転振動だ。サインやコサインは「繰り返しの運動」—円運動や上下運動に素晴らしくうってつけだ。

Fig. 1.15 As the angle t changes, the graphs show the sides of the right triangle.
[図1.15 角度 t が変化するとき、グラフは直角三角形の辺を表す]

基本的な目標は、常識 (common sense) によって計算できる速度の例を挙げることだ。微積分学は主に常識の拡張なのだが、ここではその拡張は必要ない。サイン曲線の傾きを求めよう。直線 ƒ = vt は簡単で、放物線 ƒ = ½at² は少し難しい。新しい例は日常的に見られる現実的な運動に関係している。円運動から始める。位置が与えられており速度を求める。

半径 1 の円の周りをボールが動く。その中心は x = 0, y = 0 (原点) だ。x と y は x² + y² = 1² を満たしながら変化する、ボールが円周上にあるために。図1.16aで水平線からの角度を使って位置を特定している。そしてボールの速度を一定にする。角度は時間 t に等しくする必要がある。ボールは反時計回りに動く。時間 1 のときには角度 1 の点に達する。その角度は、度よりむしろラジアン (radians) で測る。従って、円1周分は t = 360 の代わりに t = 2π となる。

ボールは角度 0 のx軸を出発する。さて時間 t のときを求める:

ボールは x = cos t, y = sin t という点にある。

これが三角比の便利なところだ。ボールが右へ行き、左へ行き、再び元に戻ってくるとき、コサインは 1 と -1 の間を振動する。サインもまた 1 と -1 の間を振動する。sin 0 = 0 から出発する。時間 π⁄2 のときサイン (高さ) は1まで増える。コサインは0でボールは頂上の点 x = 0, y = 1 に達する。時間 π のときコサインは -1 でありサインは 0 に戻る—その座標は (-1,0) だ。t = 2π (角度も 2π) のとき円を1周し、x = cos 2π = 1, y = sin 2π = 0 である。

Fig. 1.16 Circular motion with speed 1, angle t, height sin t, upward velocity cos t.
[図1.16 速さ 1, 角度 t, 高さ sin t, 上向きの速度 cos t である円運動]

重要な点: 円の周りの距離 (円周) は 2πr = 2π だ。半径 1 だから。時間 2π のうちにボールが進んだ距離は 2π である。速さは 1 だ。まだ速度を求めるのが残っている。速さだけでなく方向も含んだ速度だ。

度とラジアン
円1周は360度で2πラジアンだ。したがって
1 ラジアン = 360⁄2π 度 ≈ 57.3 度
1 度 = 2π⁄360 ラジアン ≈ 0.01745 ラジアン

ラジアンはこれらの数字を避けるために作られたのだ! 時間 t で t ラジアンに達すると、速さはちょうど 1 だ。ボールが t 度に達しただけであれば、速さは 0.01745 になるだろう。ボールは時間 T = 360 で円を1周するだろう。誰が考えたか知らないが、これらの数字を生み出す円の360等分は容認できない。

度とラジアンの様式のために sin 1° ≈ 0.017 と sin 1 ≈ 0.84 を確認する。

ボールの速度

時間 t においてボールはどの方向へ進むだろうか? 微積分学は t と t + h の間の運動を見る。1本のひもの上のボールには微積分学は必要ない—進もう。 運動の向きは円の接線方向である。円上にとどまらせる力が無ければ、ボールは接線方向に離れていく。ボールが月であれば、力は重力だ。鎖の周りを揺れるハンマーなら、力は中心から受ける。投げてが放せば、ハンマーは飛んでいく—その適当な瞬間を選び取ることは芸術だ。 (私はかつてMITで友達にハンマーが当たるのを見た。彼は無事だったが、投手は競技をやめた。) 微積分学は点 t と t + h が近づくとき、その同じ接線方向を求める。

「速度の三角形 (velocity triangle)」は図1.16bにある。それは位置の三角形と同じだが、90°回転している。斜辺は円の接線であり、その方向にボールは動く。その長さ (速さ) は 1 に等しい。角度 t はまだ現れているが、しかし今は直角を伴う角度である。上方向の位置が sin t であるとき、上方向の速度は cos t である。それは公式というより数値に基づいた微積分学の常識である。この節の残りではこのことを使う—そして特殊な点で v = cos t を確認する。

出発時刻 t = 0 において運動はすべて上向きだ。高さは sin 0 = 0 であり上向きの速度は cos 0 = 1 だ。時間 π⁄2 にはボールは頂上に達する。高さは sin π⁄2 = 1 であり上向きの速度は cos π⁄2 = 0 だ。その瞬間にはボールは上にも下にも動いていない。

水平速度はマイナスの符号を含む。最初にボールは左へ動く。x の値は cos t だが、x 方向の速度は −sin t である。三角比の半分 (十分な半分) はその数値の中にあり、sin² t + cos² t = 1 がいかに基礎的であるか分かるだろう。その方程式は任意の時間について位置と速度に適用する。

航空幾何学の応用: 図1.16の直角三角形は同じ大きさ同じ形だ。それらは合同に見えるが実際そうだ—ボールの角度 t は中心の角度 t に等しい。ボールの3つの角度を足すと180°になるからである。

振動: 上下運動

今度は直線の動きの研究に円運動を使う。その直線は y 軸にしよう。ボールが円の周りを動く代わりに、質量 (mass) が上下に動く。y = 1 と y = -1 の間の振動だ。説明の間、質量は「ボールの射影 ("shadow of the ball")」だ。

v = 1 と v = -1 による望ましくない急激な振動がある。この「バンバン ("bang-bang")」速度は、速さを落とすことなく壁を跳ねるビリヤードの球のようだ。壁同士の間の距離は 2 ならば、t = 4 で球は出発点に戻る。その距離グラフは1.2.節からジグザグ (またはギザギザ) である。

滑らかな運動の方が望ましい。+1 と -1 をとぶ速度の代わりに、実際の振動は速度を 0 まで落とし、また徐々に加速する。質量は後ろに引っ張るばねの上にあるのだ。そのばねが完全に伸びきったとき、速度は 0 に落ちる。それから質量が反対方向の同じ距離まで行くと v は負になる。単振動 (Simple harmonic motion) は最も重要な前後運動である。一方、ƒ = vt と ƒ = ½at² は最も重要な一方向の運動だ。

Fig. 1.17 Circular motion of the ball and harmonic motion of the mass (its shadow).
[図1.17 ボールの円運動と質量 (その影) の単振動]

この振動をどう言い表そうか? 最も良い方法は円周上のボールに当てはめることだ。ボールの高さは質量の高さだ。「ボールの射影」はボールと同じ高さで上下する。ボールが円の頂上を通るとき、質量は頂上で止まり下がり始める。ボールが下を回る時、質量は止まりy軸を上へと戻る。中間まで上がった (または下がった) とき、その速さは 1 だ。

図1.17aは一般の (typical) 時間 t における質量を表わしている。その高さはボールと同じ y = ƒ(t)= sin t だ。この高さはƒ = 1 と ƒ = -1 の間を振動する。しかし質量は一定の速さでは動かない。質量の速さは変化する。ボールの速さが常に 1 であっても。円一周分の時間は 2π のままだが、その周期の中で速さは上がり下がりする。問題は変化する v を求めることだ。距離は ƒ = sin t だから、速度はサイン曲線の傾きになるだろう。

サイン曲線の傾き

上端と下端 (t = π/2 and t = 3π⁄2) においてボールは方向を変え v = 0 だ。上端と下端においてサイン曲線の傾きは 0 だ。* ボールが上がり始めようとする時間 0 にはサイン曲線の傾きは v = 1 だ。ボールと質量とƒ-グラフが下がろうとする t = π には、その速度は v = -1 だ。質量は中心で最も速くなる。質量が最も遅くなる (実際には止まる) のは、その高さが最大または最小になるときだ。速度三角形は時間 t における v を生み出す。

質量の上向きの速度を求めるためには、ボールの上向きの速度を見る。それらの速度は同じだ! 質量とボールは同じ高さであり、円運動から v が求まる: 上向きの速度は v = cos t だ。

図1.18は求める結果を表したものだ。右側は ƒ = sin t の高さを与える。左側は速度 v = cos t だ。その速度はƒ-曲線の傾きだ。高さと速度は一緒に振動するが、同調していない (out of phase)—位置の三角形と速度の三角形が直角にあるのとちょうど同じだ (just as the position triangle and velocity triangle were at right angles.)。これは実に素晴らしいことだ。微積分学では、もっとも有名な2つの三角関数が組になっているのだ。: サイン曲線の傾きはコサイン曲線で与えられる。

距離が ƒ(t) = sin t であるとき、速度は v(t)= cos t である。

罪の告白: sin t の傾きは普通のやり方では計算されない。前に (t + h)² と t² を比べ、 その距離 h で割った。この平均速度は h が小さくなるにつれ傾き 2h に近づく。sin t に対して同じことが出来る:

平均速度 = sin t の増加量 ⁄ t の増加量 = (sin(t+h) − sin t) ⁄ h   (1)

ここで sin(t+h) の公式が必要になる。もうすぐ。なぜか(1)は h → 0 のとき cos t に近づくのだろう。 (そうなる。) サインとコサインは t² と 2t に同様である—手っ取り早くは円運動の射影を見た。

Fig. 1.18 v = cos t when ƒ = sin t (red); v = −sin t when ƒ = cos t (black).
[図1.18 ƒ = sin t のとき v = cos t ; ƒ = cos t のとき v = −sin t]

問 1   ボールが2倍の速さで動くとき、時間 t で角度 2t に達するのは何か?
答   今は速さが 2 だ。円一周の時間は π だけだ。ボールの位置は x = cos 2t, y = sin 2t だ。速度はまだ円の接線だ—しかし接線はボールのある角度 2t にある。従って cos 2t が上向きの速度に入り、-sin 2t が水平方向の速度に入る。違いは速度三角形が2倍の大きさになることだ。上向きの速度は cos 2t ではなくbut 2 cos 2t だ。水平方向の速度は -2 sin 2t だ。この 2 に注意だ!

問 2   t = 0 から t = π⁄2 までのコサイン曲線の下の面積は何か?

微積分学の基本定理を認めるなら答えられる—面積の計算は傾きの計算の逆である。sin t の傾きは cos t だ。従って cos t の下の面積は sin t で増加する。これを信用する理由はまだ無いのだが、 とにかく使うことにする。

sin 0 = 0 から sin π⁄2 = 1 までで増加量は 1 だ。微積分学の力に気付いてほしい。コサイン曲線の下の面積をこれほど速く計算できる方法は他にない。

もうひとつ距離と速度 (ƒ-v の組) を見せたくて仕方ない。新しいことは使わずに。今度は ƒ コサインだ。時計は円のてっぺんを開始とする。先の時間 t = π⁄2 は今度は t = 0 だ。図1.18の点線は新しい開始を表す。しかし射影は全く同じ動きだ—ボールは円周をまわり続け、質量はそれに合わせて上下する。ƒ-グラフとv-グラフはやはり正しいが、ともに時間のずれが π⁄2 だ。

新しいƒ-グラフはコサイン曲線だ。新しいv-グラフは負のサイン曲線だ。コサイン曲線の傾きは負のサイン曲線に従う。これが最初のとそっくりなもう一つの有名な組だ。

距離が ƒ(t) = cos t ならば、その傾きは v(t) = −sin t である。

ボールが左右に (あるいは上下に) 動くのを見れば、そうなることがわかるだろう。その距離は ƒ = cos t だ。速度は v = −sin t だ。この双子の組 (三角比から出た) が1章の微積分学を仕上げだ。復習する:

v速度
距離曲線の傾き
短時間における平均速度の極限
ƒ の導関数
ƒ距離
速度曲線の下の面積
短時間における距離の合計の極限
v の積分

微分: ƒ から v を計算   積分: v から ƒ を計算

一定の速度では ƒ は vt に等しい。一定の加速度では v = at, ƒ = ½at² だ。単振動では v = cos t, ƒ = sin t だ。われわれの目標の一部はこのリストの拡張である。—微積分学の道具が必要になる。別のもっと重要な目標はこの考えを実行に移すことだ。

章を終える前に、本書と課程について書き加えてよいだろうか? 本書は通常より個人的である。読者には認めてもらいたい。読者がこの部屋にいるかのように、ほとんど話すように書いている。文章は書く前に話している。*微積分学は生きており、前進している—だから、そのように教えられるべきなのだ。

主題の新しい部分はコンピュータにある。それは有限回のステップ h で動く。「無限」の極限ではない。可能なことは早い。—たとえ正確な傾きや面積を求められなくとも。その結果は解決できる問題の範囲の圧倒的な拡大である。ƒ と v が非常に正確だったので月に着陸したのだ。 (月の軌道にはサインとコサインが含まれており、宇宙船は v = at, ƒ = ½at² で出発する。大気や太陽の重力や宇宙船の質量を報告できるのはコンピュータだけだ。) 現代数学は正確な公式とおおよそのコンピュータ計算との組み合わせである。どちらも無視できない。代数学で得たものを数字の上で見ることを望む。

課程は唐突である—集合や関数や極限の抽象的な議論を行っていない。しかしそれらの考えを導く具体的な例を付けてある。距離関数 ƒ と平均速度の極限 v を見た。より多くの関数や極限 (そしてその定義!) に出会うだろうが、早くから重要な例を学ぶことが大切なのだ。やることは多いが、課程は確かに始まっている。

1.4 EXERCISES

Read-through questions